第一回:洋画家、植月躋(のぼる)さん

今日は、大泉在住の画家・植月躋氏のお宅にお邪魔して、八ヶ岳のこと、創作のことなど、非常に楽しく伺いました。南向きの窓からは、富士山が美しい姿を見せてくれていました。


植月邸窓辺から望む富士山
植月邸窓辺から望む富士山

 


八ヶ岳高原に最初にいらしたのはいつ頃で、何歳位の頃でいらっしゃいますか?


昭和52年(1977年)、52歳の頃ですね・・・。八ヶ岳に惹かれて、西麓の美濃戸に山小屋を建てたんです。休日や、少し長い休日にも美濃戸に来て絵を描いていました。


語る植月躋さん1
応接間でお話くださる植月躋さん

 



他の観光地ではどんなところがお好きですか?




鉄建公団の仕事に携わっていたものですから、絵を描き始める50歳よりずっと若い頃から、色々な土地を訪れていました。北海道、それから九州一円、西中国にも行きました。それに名古屋(中部地方)など・・・とにかく各地を回っていたので、それぞれの観光地は隈無く行きました。殆どの名所旧跡は訪れています。



それはまた羨ましい話です。日本中の、じつにたくさんの風景に出会っていらっしゃるんですね。


応接間に飾られた植月さんの絵(八ヶ岳南麓高原風景)
応接間に飾られた植月躋さんの絵


 


その中で、なぜ、八ヶ岳高原と関わりをもつに至ったのですか?


絵を描く私の目から見れば、八ヶ岳南麓の風景は日本一だと思いましたね。定年以降は絵を描くことに専念するつもりでいたのですが、私の場合は、殆どが風景画だったものですから、絵を描くのに相応しい場所を探していたんです。 で、軽井沢は浅間山、安曇野は常念岳と北アルプスの前衛山しか見られないのに、八ヶ岳高原の南麓は、北に八ヶ岳、南に富士山、東に奥秩父連山、西に南アルプスと360度の山岳パノラマでしかも、山に囲まれていながら、明るく広々としているところに惹かれましたね、生涯かけて風景画を描く場所はここだ、と確信しました。


植月躋さんの絵「甲斐駒、盛夏」(八ヶ岳高原南麓から望む)
植月さんの絵「甲斐駒、盛夏」


植月躋さんの絵の解説,南アルプス・甲斐駒の絵について

この八ヶ岳高原の自然景観の美しさ・魅力を、“日本一”と表現する方は多いですね。特に、いろいろな観光地を知っている人ほどそう指摘される傾向があります。


で、実際、八ヶ岳高原に住んでみて、どんなところに魅力を感じていらっしゃいますか?



それはいろいろありますねぇ。なにより気候が穏やかで日照時間も日本一なのがいいですね。



歓談中の植月さん2
歓談中の植月躋さん


と、ここで、にこやかにインタビューを聞かれていらした奥様が口を開きました。


それに、この辺(植月邸)のような標高1000m付近は、自然風景も高原らしくて山野草など花も愛でることができるかと思えば、野菜など畑仕事だってできますでしょぅ?そういう風に、自然と生活の二つが両立するところが、とっても気に入っています。



上高地や尾瀬や蓼科・霧ヶ峰など、“素晴らしい自然”に恵まれた地は他にもありますが、いずこも生活・それも永住するにはたしかに不向きかも知れないですね。


富士初秋(八ヶ岳南麓から望む富士山とススキの穂)
植月さんの絵「富士初秋」


植月躋さんの絵の解説、すすきと富士山の絵

さて、八ヶ岳高原での暮らし・・八ヶ岳高原との交流を伺ってきましたが、日頃人との交流はどうされていらっしゃいますか?




そうですね。ひとつには、猫の手クラブというものがありまして。なにかと不便な山麓に住まう仲間同士で、自分の出来ることをお互いにしあって、いわば猫の手も借りたい時に助け合おうというんですが・・。それで人を駅まで車で送っていったりですとかね。それと、VIPクラブという活動に参加しておりまして、その仕事をコンピュータでやったり・・。 VIPクラブというのは、聖書の中の一句なのですが、神様からみれば、世の中の人全てが
“ヴェリー・インポータント・パースン”だということで、東京から始まり、またたくまに全国に支部が出来てきた活動なんですが、その八ヶ岳支部の世話人ということで、やっているんです。それが支部の自主性を尊重して本部の意思を押しつけることもなく、またクリスチャンでなくても自由に参加できるので実際たくさんの方が参加していて、2ヶ月1回、昼食会を開き、有識者を招いて講演を聞くという会なんです。 ここはじつに人材が豊富なところですからね。いろんな分野に長けた方がいらっしゃいます。せんだっても80歳を越えられて東アフリカの子供たちを救おうという運動をされていらっしゃる女性の方―それが何と偶然、彼女も何十年も前から八ヶ岳山麓の住人でいらしたことが最近になってわかって驚いたのですが―のお話を、伺って来ました。




たしかに、この八ヶ岳高原には、各界で活躍されている方がたくさんおられます。私自身も東京在住時代よりもかえって交友関係が広がり、貴重な出会いをさせて戴いています。


植月躋さんの絵、グラナダ・アルハンブラ宮殿
植月さんの絵「アルハンブラ宮殿」2003年


植月躋さんの絵の解説

話をすこし個人的な面に変えてお聞きしますが、八ヶ岳や人との交流の他に、ご自身の生活で楽しみとされていらっしゃることはお有りですか?



それがいろいろあってとても忙しいんですよ。550坪の庭の芝刈りをやったり、草むしりもしなければなりませんし。いや、日曜大工や園芸も大好きなんです。それに、趣味の囲碁(奥様曰く、5段の腕前だそう)や・・・。ボケ防止に?(笑)、麻雀もしたりですとかね・・・。あと趣味と言えるかどうか、NHKのテレビ番組で歴史だとか地理だとかの勉学的な番組で、これは保存版だというものを朝新聞でチェックして、DVD録画したりしています。もちろん、インターネットは毎日やっていますし。それに、VIP八ヶ岳の案内状や名簿の整理や宛名印刷など、コンピュータに詳しい人がいないので、私がひとりでやっています。講師の依頼なんかも殆ど私がやっているんです。もう今度で50回になりますがね。そんな活動もやっているので、時間が足りないんですよ。




とても83歳とは思えないほどのバイタリティですね。それに画家でいらっしゃいますから、園芸などは線が繋がっていると思われますが、コンピュータを使いこなしていらっしゃるのは敬服しますね。尤も、元々が東大の理系出身という経歴がお有りだからかもしれませんが。


植月邸から眺める南アルプス(中央に北岳)
植月邸から眺める南アルプス(中央に北岳)。


 



それほど多面的な活動をされていらっしゃいますと、本職の画家としての創作活動はどうなさっていらっしゃるのですか? 個展は、今でも開いていらっしゃいますか?




ええ、個展は相変わらず2年か3年に1度、銀座の画廊でやっているのですけれどもね・・。そんな訳で最近は、頭の中では画家としての創作をしなければとは思っているのですが、体がついていかない状態ですね(笑)。



ここで奥様から絶妙のサポートが・・


主人の場合、現場主義でやって居りますでしょう?ですから、とにかく描く風景の場所に何日も通って描くことになるのですけれども、たとえば桃の花にしても、3日目に雨が降ってしまって、その日は描けずに、翌日行ってみたらもう散っていたとか、摘花されていたというような事があったり、そうするともう、来年まで待たなければなりませんし、雪の日の風景では、手が凍るほどに寒い中で筆を持って描かなければなりませんしね・・。もちろん風が強く吹いている日は、私も付いて行ってキャンパスが倒れないように支えなければなりませんし。そんなこんなで体力的にも、本当に大変なんですよ。


なるほど・・・。植月さんの絵の秘密を垣間見たような気がします。どの作品を見ても、叙情的なばかりでなく、目には見えぬそこはかとない身体性の あたり一面にただようその画風は、やはりデッサンだけ現場で済ませてあとはアトリエに篭もるということなく、ある時は母胎のごとき柔和な大気の中に身をゆだね、またある時は厳しい風雪にも惜しみなく肌身をさらすという地道な創作活動の中から、ひとつひとつ生まれたのですね。(インタヴユー同行者、Rei談)


植月躋さんの絵、桃咲く
植月躋さんの絵「桃咲く」


植月躋さんの絵の解説、桃咲く

植月さんは絵画のみならず、そのお書きになる文章にも、趣きとバックグラウンドを彷彿させる格調がありますね♪



植月さんの作品は、叙情性に溢れていて、しかも奇をてらったところが全くなくて、極めて自然体で描かれており、空気感さえ感じられますよね。絵の前に立つと、自分自身が絵の風景の中に溶け込んでいるような感覚を覚えますし、心が癒されますし、和みます。それになにより、
『ああ、この画家さん自身、描いているこの風景と自然を本当に愛しているんだな』と感じられて、私は個人的に大変好きなのですが、画家・植月躋として特にこだわっている事はどんなことでしょうか?



・・・ええ、ええ、癒しですね。見てくれた人の心を和ませるような絵。それとね、やはり空気を描きたいんですよ。大気。その風景のもつ雰囲気ですね・・。これを描きたいと思っているんです。でも、自分で気に入った作品は皆売れてしまって(笑)、現在残っている作品には満足できるものがあまりないんですよ。――ですから、私はもう83歳であと何年生きられるか分かりませんが、これからは、自分のために、残せる絵を描きたいですね。


植月さんには、まだまだ画家として私どもを楽しませてほしいものです。それにしても、「自分のために、残せる絵を描く」、という言葉は、実に深く心に染みるものがあります。芸術家にとっての《レクイエム》ですね。本当に、感銘を受けました。


応接間に飾られた植月躋さんの絵、八ヶ岳・赤岳登山の雪の絵「赤岳への道、美濃戸口にて」
応接間に飾られた植月さんの絵「赤岳への道、美濃戸口にて」


さて、話を転じて、ここでまた生活者という観点から一つ伺ってみました。


八ヶ岳高原の地域行政や地域住民へのメッセージがあったら、お聞かせ願えますか?



「これは観光のことだけではないのですが・・、泉川で河川改修の護岸工事をやっていますでしょう? だけれども、土木のプロだった目からみますと、もっと自然景観に配慮した工事をやっていただきたいですね。それと・・・今は使われず放置されたままのビニールハウスも、景観を損ねますので画家の立場としては困りますね。…それから、折しも今選挙期間中ですが、もっと、市長や議員さんたちに公僕としての意識をもっていただきたいと思いますね。公金をもっと有効に使っていただきたい、公金の使用については十分留意していただきたいと思います。住民はと言うより、行政のやることをチェックするには、オンブズマン制度の導入も必要かもしれませんね。」



ちょうどインタヴュアーの自宅の横を流れるせせらぎも護岸工事をしておらず、自然の状態で蛇行している景観が、都会からみえる宿泊客や友人知人には大好評です。ビニールハウスの問題は、せっかく中は綺麗な花園なのですから、生育にも適応するせめて透明のビニールハウスが開発されないかと私も思います。そうすれば、歩いている人の目を楽しませてもらえますし。オンブズマン導入は大賛成です。


最後に、八ヶ岳高原の観光の現状と将来について、何かご助言をいただきたいのですが・・


ここでもまた、奥様から適切なサポートがありました。


先日、東京の友人を案内して権現岳に登山したのですが、道路標識が間違っていて、迷ってしまったんです。おみやげやさんが観光の柱になっているのはおかしいですよね。ここは何と言っても自然が観光の目玉でしょう?ですから登山やトレッキングをする人たちの安全を考えて、まずは道路標識の整備だとか、コースの途中に休憩用のベンチを備えるだとか、絶景の邪魔になっている木を伐採するとか(※乱開発には賛成できませんが)、観光の面でも、やるべきところは積極的に対応して欲しいですね。


植月さんの絵はがき(八ヶ岳南麓とその周辺からの風景、12景。八ヶ岳,甲斐駒,富士山)
植月躋さんの絵はがき



観光行政以外の、たとえば宿ですとか、食事処などの、観光事業主に何かアドバイスはありませんでしょうか?




そうですね・・たとえばレストランなど、少し勉強不足なお店もありますね。(観光地だからということで甘えないで)、東京などからみえる友人・知人に安心してご招待できるレストランがもっと増えてほしいですね。
 それと建物なども、自然環境に調和させてほしいですね。派手な色遣いなど景観を壊している建物もありますからね。




既に建ってしまっている建物は仕方ないとして、これからペンションやお店をやる方は、こうした美に生きる方々の声に率直に耳を傾けていただきたいものです。
植月躋さん、そして折に触れて適切なお言葉をくださった奥様、長時間ありがとうございました。
 インタヴュアーと、写真撮影で同行した妹は、応接間の壁に架かっていた素敵な絵に心満たされて外に出ました。いま目の前にしている、八ヶ岳南麓から望む赤岳や、甲斐駒ヶ岳、そしてたなびく雲間からくっきりと浮かび上がる富士を、それらと対峙しつつ描いたひとりの画家のそれと、心の中で重ね合わせていました。辺りを取り巻く高原の大気・草いきれとともに、です。
 肌寒い晩秋の黄昏が、始まりかけています。南アルプスが美しく荘厳な姿をみせてくれていました...。



植月躋(Noboru Uetsuki)
1925年(大正14年) 岡山県生まれ。東京大学工学部卒。土木工学を専門とし、鉄建公団に従事していたが、50代で洋画家となる。楢原健三氏に師事。
東京銀座にて十数回の個展を重ねる。元旺玄会会員。


◆編集後記...

絵画の中に画家の身体はどこにもないのに、その空気をひたひたと感ずる肌身の殆ど透明なフィルターを、画面のそこここに感じさせる、そしてそれは絵画の前に佇む私たち鑑賞者が味わう空気感ともひとつになる...という植月さんの自然体な画風の所以を学べた、素敵なインタヴューとなりました。また私たちNPO法人の理念と主旨、また八ヶ岳南麓高原の持ち味にもおのずから即したインタヴューとも相成りまして、幸いに存じます。八ヶ岳南麓エリアの明日につながるご意見もいただけまして、収穫の多い一日となりました。


WEB担当:鈴木麗子






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